双輪 ―フタツノワ―
 
 男は、今朝方産まれたばかりの子を抱え、夜道を一人歩いていた。人少なになる時間帯を選んだものの、やはり人目を憚るように、きょろきょろと辺りを見渡しながら進む。
(――何故、よりによって……)
 そう唇を噛み、自分が抱える女子を見下ろす。この子は、双子だったのだ。
 双子は不吉なものと言われている。しかも、妻が産み落としたのは、心中者の生まれ変わりとして特に忌み嫌われる、男女の双生児。
 男の家では跡継ぎを切望されていたため、双子の弟は家に置くことになったが、女児の方は間引かれることとなった。
 ――いっそのこと、この手で始末をつけてしまおうか。
 腕の中で静かに眠る赤子は、あどけない顔をしていた。だが、男にはその顔が恐ろしかった。呪われた生を受けたこの赤子が。
 やがて辿り着いたのは、森の中の、小さな川が流れる場所だった。ここに投げ捨ててしまえば――
 
 ガサガサッ
 
 ふいに森がざわめいた。男は肩を震わせ、頭上を仰ぎ見る。雲一つない闇夜の空へ、一羽の鳥が飛び立ったところだ。その音に驚いたのか、赤子は目を覚まし、大声で泣き出す。
 気が付けば、周りの木の枝には何羽もの鳥が止まっていた。彼らはただじいっと男を見据えている。彼が抱える赤子を狙っているのか、それとも――
 思わず男は赤子を草むらに下ろし、悲鳴を上げながらもと来た道を駈け逃げていった。
 しかし、一つの人影が彼の背後に潜んでいたことには、全く気付いてはいなかった。
 
 男の足音が完全に聞こえなくなると、藪の中から巫女装束をまとい、その上から千早と呼ばれる装束を身につけた女が姿を現した。女が軽く指を鳴らすと、残りの鳥は全て夜空へ飛び立った。
「全く――『赤子に罪はない』ものを……。『自分の子を捨てるだなんて親のすることじゃない』だろうに、な」
 女はくすくす、と嘲笑し、捨て置かれた赤子に歩み寄る。彼女が足を踏み出すたびに、その髪と手足に付けられた鈴が、音を奏でた。
 未だ泣き続けている女児を抱き上げ、そして彼女は男が向かったのとは反対の方向へ進んでいく。そのまま、森の奥の闇の彼方へ消えていった。
 

《次》

 

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